2014年5月1日木曜日

第2回 大気の窓 ― その1

前回の最後に、宇宙からのやってくる電波のうち波長がおおよそ30mよりも長いところは、ほとんどが電離層で吸収され、地表では観測できないという話をしましたが、大気による電磁波の吸収は、観測天文学ではとても重要な課題です。これから数回にわたって、地球大気の電磁波の通貨特性についてまとめてゆきます。

地球の大気というのは、実に広い波長範囲に渡って電磁波を吸収します。紫外線、X線、γ線はほぼ完全に大気で吸収されますし、赤外線の大部分も大気で吸収され地表に届くときには大きく減衰してしまいます。下図に横軸に波長をとった場合の、大気による電磁波の吸収の度合いを示します。半減高度が高いほど吸収が大きいことを示しています。

図 大気による電磁波の吸収特性
この図を見ると、大気で吸収されずに地表まで届く波長帯は、可視光と電波のみであることがわかります。つまり、地表で観測ができる波長は、基本的に可視光と電波の領域に限られるということになります。このことから、可視、電波の二つの波長帯は、『大気の窓』と呼ばれることがあります。

可視光は、人間が肉眼で見ることができる波長帯であるため、観測天文学の歴史において、最も早くから研究が行われてきました。可視光域における大気の窓は、上図に見られるように比較的狭い範囲に限られます。

電磁波の波長は、黒体放射を表すプランクの分布式を使うと温度でも表現することができますが、可視光の大気の窓は、温度で表すと $T \sim 3000$ K から $T \sim 10000$ K ぐらいの範囲となります。したがって、可視光で見える天体は、おおよそこの程度の温度を持った星や高温のガスなどが中心となります。(また、太陽系の惑星や彗星など、星などの光を反射する天体も観測可能な場合があります。)

温度が $T \sim 3000$ K から $T \sim 10000$ K 程度の天体は、プランクの放射式が示す放射強度の分布を考えると、電波の波長域では非常に暗く到底検出することは不可能だと、可視光域のみで観測を行っていた初期の天文学者は考えていました。当時の固定観念は、1932年のある無線技術者による偶然の発見を機に瓦解して行くこととなります。(初期の電波天文学の歴史についてはまた追々、回を改めてお話してゆくことにします。)

上図で解るように、電波帯における大気の窓は、可視光における大気の窓に比べて格段に広い波長に渡っています。したがって、電波を放射する天体も、天体が電波を放射するメカニズムも様々なものが存在します。(これらも追々説明していきます。)

上図では、横軸を波長で表しましたが($1\mathrm{\mathring{A}}= 10^{-10} {\rm m} = 10^{-8} {\rm cm}$)、電波天文学では電磁波を振動数(周波数)単位で表すことも多いです。振動数 $\nu$ と波長 $\lambda$ は、$c$ を真空中の光速として $\nu = c/\lambda$ という関係で結ばれているので、$\lambda = 1$ cm は、$\nu = 30$ GHz に相当します。

第1回でもふれましたが、波長が 30 m ($3 \times 10^{11}$ Å)よりも長い領域では、電離層による反射のため地表に届かなくなります。(吸収ではなく反射のため上図には示されていません。)

次回は、大気の通過特性についてさらに詳しく見て行きます。