2014年5月3日土曜日

第3回 大気の窓 ― その2



今回は大気の窓についてもう少し詳しく見てゆきましょう。

電磁波が大気によって減衰される度合いは、周波数によって異なり、可視光や電波の波長域では、あまり減衰されずに宇宙起源の電磁波が地表まで届くという話を前回しました。では、大気による電磁波の吸収はどのような物理過程によって引き起こされているのでしょうか。

電波域における大気の窓の上限は、大気中の ${\rm CO_2}$、${\rm O_2}$、${\rm H_2O}$ といった分子の影響で既定されています。このような分子では、異なる振動励起状態間のエネルギーの差がおおよそ中間赤外線の波長域に相当するため、宇宙起源の中間赤外線光子は、これらの分子と出会うと吸収されてしまいます。(エネルギー $E$ と、振動数 $\nu$ の間には、$h$ をプランク定数として、$E=h\nu$ の関係があるので、エネルギーを波長で表すことができます。プランク定数 $h$ の値は、おおよそ $6.626 \times 10^{-27} {\rm erg\, s}$ です。)

また大気を構成する分子の回転遷移状態間のエネルギーは、遠赤外から電波域に広く分布するため、周波数によって電波域でも大気の吸収が大きくなる場合があります。

一方、電波域における大気の窓の周波数が低い方の端では、周波数 300 MHz のあたり(波長で言うと 30 m程度)ぐらいを境として、電離層の反射の影響で地上での観測が難しくなります。電離層における電磁波の反射率は、$\lambda^2$ に比例して強くなります。したがって、長波長の電波で見た地球は鏡でできた球体のようなもので、宇宙からの長波長の電波は地表に届く前に、電離層でほぼ完全に反射されてしまいます。

大気中の分子は、紫外線、X線、γ線の波長域でも強い吸収を起こします。紫外線の波長は、分子を構成する原子の、電子遷移のエネルギー差に相当するため吸収が起こります。同様に、X線、γ線の波長は、原子核における核遷移のエネルギー差に相当するため吸収が起こります。

ちなみに電波の波長域では、可視光のような大気の散乱による影響は受けません。可視光の場合、大気中のチリ等によってレイリー散乱されるため、空全体が明るくなり日中は地上からの観測ができません。しかし、電波の波長は、大気中のチリ粒子のサイズよりも遥かに大きく、散乱がおこりません。このため、電波の観測は日中であっても行うことができます。

次回は、電波の波長帯における大気の吸収特性をより詳しく見ていくことにします。